もごい
講演「聞 こえぬ音
「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」主催講演会のトランスクリプト

「たしかに彼は人を殺しました。殺したことを認めてもいます。 あの透明板の向うに座っている彼に私が何を感じているかといいますと、恣意的に彼 のなかから善を抽出しようとしているのではありません。彼をいい人だと いいたいのではないのです。悪い人だといいたいのでもない。そのような善悪の二分法は私にありません。なかなかうまい言葉が探せず悶々と悩んでいたのです が、ある言葉が思い浮かびました。これは方言だと思うのですが、「もごい」という言葉です。恐らく「むごい」という言葉から来ていると思うのですが、惨 状、惨殺の惨であります。あるいは過酷の酷という字をあてることもあります。意昧は惨いというのはもちろんですが、惨たらしい、残酷である、それから不思 議なことに可哀想だ、痛ましい、あるいは愛しいという意味もあります。「もごい」という語感の中には標準語の「むごい」以上のかなり相反する、矛盾する意 味が隠されているわけです。」